決算整理において経過勘定項目は非常に分かり辛いうえにとても重要な論点です。
これをしっかりと理解しておかなければ財務諸表を作り上げることは不可能です。
今回はそんな経過勘定項目について詳しくみていきたいと思います。
スマホで見難い場合は横向きで見てみて下さい!
経過勘定項目とは
期中の仕訳をする時、家賃や保険料、手数料などは受け取った段階、もしくは支払った段階で仕訳をおこなっていきます。
しかし、仕訳の時に支払うお金や受け取るお金が数ヶ月分、年単位ということも中にはあります。
もちろん毎月毎月お金の支払や受取をしていればその度に仕訳は行われていきますが、実際はそうではありません。
私たちの生活の中でも、自動車保険などは年払いをしている人も少なくはないのではないでしょうか?
決算では当期にかかった費用や資産、負債を正確に把握する必要があります。
その為、年払いなどをしている場合には『お金をはらっているのにサービスや物品を受け取っていない』ことや『お金を受け取っているのにサービスや物品を提供していない』この様なことが起こってしまいます。
それを一会計期という期間に絞って仕訳をしていくのが『経過勘定項目』です。
経過勘定項目の種類
経過勘定で考えなければならない項目は4つに分類することができます。
状況に応じて上の4つの項目を決算で決算整理をおこなう必要があります。
一つ一つ順番に見ていきます。
費用の前払い
継続的な契約を元に当期に支払った費用の金額に次期以降の分が含まれている場合は決算で費用から差し引かなければ当期における正確な費用の算出ができません。
『実際にサービスや物品を受けた分の金額』
『支払ってはいるが次期以降にサービスや物品を受ける権利』
支払い済みの費用を『費用』と『資産』に分けましょう!という事です。
ではまずここで決算整理前の試算表を見てみます。
借方 | 勘定科目 | 貸方 |
---|---|---|
2,400 | 保険料 | |
現時点での残高試算表はこのようになっています。
しかし、この保険料を支払ったのは10月1日なので次期の9月30日までの保険料という事です。
この保険料に対する保険サービスを受けられる期間は
当期の12月1日〜3月31日まで=すでに受けた保険サービスの費用
次期の4月1日〜11月30日まで=次期の保険サービスを受ける権利
会計期ごとでこのように分ける事ができます。
それでは仕訳をしていきます。
まずは月割計算で次期分の保険料を算定しましょう。
保険料 × 次期保険期間(月単位)÷ 保険料対象期間 = 次期分保険料
2,400円 × 8ヶ月 ÷ 12ヶ月 = 1,600円
年間保険料を月単位で計算して次期分の保険料を算定します。
そして算定された次期分保険料を仕訳していきます。
日付 | 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|---|
3/31 | 前払保険料 | 1,600 | 保険料 | 1,600 |
そして決算生理前残高試算表と合算させて
借方 | 借方 | 勘定科目 | 貸方 | 貸方 |
---|---|---|---|---|
2,400 | 保険料 | 1,600 | ||
1,600 | 前払保険料 |
これを計算して決算整理後残高試算表を作成します。
借方 | 勘定科目 | 貸方 |
---|---|---|
800 | 保険料 | |
前払保険料 | 1,600 |
この様に決算整理後試算表が完成します。
当期に費用として支払った保険料は800円、次期に1,600円分の保険サービスを受けられる権利があるという事が分かりますね。
- 当期にすでにサービスを受けている期間の金額=『費用』
- 支払いが完了しており、次期以降に受ける権利=『資産』
収益の前受け
継続的な契約を元に当期に受け取った費用の金額に次期以降の分が含まれている場合は決算で収益から差し引いて当期の正確な収益を確定させます。
考え方としては先ほどの逆です。
『実際に当期中にサービスや物品を提供した金額』
『収益として受けっとてはいるが、次期以降にサービスや物品を提供する義務』
受取済の収益を『収益』と『負債』に分けていきます。
まずは決算整理前残高試算表から見ていきます。
借方 | 勘定科目 | 貸方 |
---|---|---|
受取家賃 | 2,400 | |
決算生理前残高試算表には受け取った家賃のみが記録されています。
しかし、この家賃を受け取ったのは10月1日なので次期の9月30日までの家賃です。
そしてこの家賃について当期分の次期の分で分けて考える必要があります。
当期の12月1日〜3月31日まで=すでにかかっている家賃の収益
次期の4月1日〜11月30日まで=次期に物件を提供しなければならない義務
収益と義務(負債)に分けられる事が分かります。
続いて決算整理仕訳をおこなっていきましょう。
先ほど同様に月割計算で次期分の家賃の計算をします。
受取家賃 × 次期分家賃受取済期間(月単位)÷ 12ヶ月 = 次期分受取家賃
2,400円 × 8ヶ月 ÷ 12ヶ月 = 1,600円
すでに受けっている家賃のうち実際に物件の提供をしていない期間の金額が計算できました。
そして算定された次期分の家賃を仕訳していきます。
日付 | 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|---|
3/31 | 受取家賃 | 1,600 | 前受家賃 | 1,600 |
まずは物件の提供が完了していない期間を割り出して、帳簿上の家賃から引きます。その引いた額を次期に物件を提供しなければならない義務として仕訳をします。
決算生理前残高試算表と合算させると
借方 | 借方 | 勘定科目 | 貸方 | 貸方 |
---|---|---|---|---|
1,600 | 受取家賃 | 2,400 | ||
前受家賃 | 1,600 |
これを計算して決算整理後残高試算表を作成します。
借方 | 勘定科目 | 貸方 |
---|---|---|
受取家賃 | 800 | |
前受家賃 | 1,600 |
この様に決算整理後試算表が完成します。
当期の受取家賃(収益)は800円、次期に1,600円分の物件の提供義務が発生しているという事が分かります。
費用の未払い
すでに当期に発生しているはずの費用を、契約によって支払っていない場合は当期の費用として決算で計上しなければなりません。
『実際にサービスなどを受けてはいるが期中に発生しているはずの金額』
簡単にいうと借金をしているような状態ですね。
未払いの費用を『費用』と『負債』に分けましょう!という事です。
これを求めて計上する仕訳をおこないます。
では決算整理前の試算表を見てみます。
借方 | 勘定科目 | 貸方 |
---|---|---|
借入金 | 2,400 | |
現在の残高試算表にはこの様に借入金の2,400円のみが計上されています。
ここで論点になるのは『借入金(元本)にかかる利息』についてです。
借入金に対する利息は返済時に元本とともに返済時に支払うという条件で借り入れをしているので
決算の時点ではまだ利息も元本も返済を支払ってはいません。
しかし、借り入れてから決算までの期間中も元本に対する利息はかかっています。
当期の12月1日〜3月31日まで=すでに発生しているはず費用の未払い状態といういイメージです。
この様に、本来払わなければいけないけれど、まだ支払っていない費用を当期の費用として計上しましょう!という事ですね。
当期にかかっている費用をはっきりさせるという事です。
当期の12月〜3月までの負担するべき利息を月割で計算して計上していきます。
それでは仕訳をしていきます。
① 借入金 × 年利 = 総支払利息
2,400円 × 5% = 120円
②年間利息金額 × 当期経過年数 ÷ 12ヶ月 = 当期分発生利息
120円 × 4ヶ月 ÷ 12 = 40円
この様にして当期に発生している利息を算定していきます。
そして算定された利息を仕訳していきます。
日付 | 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|---|
3/31 | 支払利息 | 40 | 未払利息 | 40 |
そして決算生理前残高試算表と合算させて
借方 | 借方 | 勘定科目 | 貸方 | 貸方 |
---|---|---|---|---|
借入金 | 2,400 | |||
未払利息 | 40 | |||
40 | 支払利息 |
これを計算して決算整理後残高試算表を作成します。
借方 | 勘定科目 | 貸方 |
---|---|---|
借入金 | 2,400 | |
未払利息 | 40 | |
40 | 支払利息 |
この様に決算整理後試算表が完成します。
当期の経過月数に応じて発生している利息を費用、支払うべき費用(負債)として仕訳します。
- 当期にすでにサービスを受けているが支払いをしていない期間の金額=『費用』『負債』
収益の未収
契約によって収益が発生しているが(サービスを提供しているが)そのお金を受けとっていない場合には当期における収益として計上する必要があります。
『実際にサービスや物品を提供して受けとっていない分の金額』
受けとっていない金額を当期期間の『収益』と次期以降に受け取れる権利である『資産』に分けましょう!という事です。
今回は自分が利息を受け取る側で考えてみます。
まずここで決算整理前の試算表を見てみます。
借方 | 勘定科目 | 貸方 |
---|---|---|
2,400 | 貸付金 | |
今回は自分が貸し付けている場合ですので、未払いの場合とは逆に『収益を受ける立場である』という事が論点になります。
決算整理前残高試算表には貸付金2,400円のみが記録されています。
考えるべき事は『貸付金(元本)にかかる利息』についてです。
元本にかかる利息は契約上は一括で次期に返済を受ける事になっていますが、当期における貸付期間での利息の計上をおこなわなけれなばりません。
当期の12月1日〜3月31日まで=当期の貸付期間で発生している利息は当期の収益であり受け取る事のできる権利ということです。
当期の12月〜3月までの期間の貸付で発生している利息を月割で計算して計上していきます。
それでは仕訳をしていきます。
① 貸付金 × 年利 = 総受取利息
2,400円 × 5% = 120円
②総受取利息 × 当期経過年数 ÷ 12ヶ月 = 当期発生分受取利息
120円 × 4ヶ月 ÷ 12 = 40円
この様に、当期に発生している利息を計算します。
そして算定された利息を仕訳していきます。
日付 | 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|---|
3/31 | 未収利息 | 40 | 受取利息 | 40 |
そして決算生理前残高試算表と合算させて
借方 | 借方 | 勘定科目 | 貸方 | 貸方 |
---|---|---|---|---|
400 | 貸付金 | |||
40 | 未収利息 | |||
受取利息 | 40 |
決算整理後残高試算表を作成します。
借方 | 勘定科目 | 貸方 |
---|---|---|
2,400 | 貸付金 | |
40 | 未収利息 | |
受取利息 | 40 |
この様に決算整理後試算表が完成します。
当期の経過月数に応じて発生している利息を収益、収益を得る権利(資産)として仕訳しましょう。
- 当期にすでに提供しているサービスにたいしての未収金=『収益』『資産』
経過勘定項目で必要な考え方
ここまでみてきた様に経過勘定項目では一会計期『当期』に絞った考え方をしなければなりません。
この考え方は通常では非常に分かり難い考え方かもしれませんが、この前提には簿記の考え方である『一定期間の経営成績』と『一定時点の財政状況』を財務諸表の作成によって明白にしていくという事があります。
この二つの条件を満たすには一会計期内の出来事なのか、次期以降の出来なのかをはっきりと区別していかなければならない為この様な仕訳を決算時(一定時点)でおこなう必要が出てくるのです。
かなり慣れない考え方かもしれませんが、まずは理解をしていく事が大切かもしれません。
この経過勘定項目はどれも当期に発生している『費用』と『収益』を本当に全て当期のものですか?それは契約によって次期以降の分も入っているのではないですか?というところから考えていかなければなりません。
当期以後の『経営成績』を『財政状態』へ振り替えてている事がポイントになると思います。
損益計算書、貸借対象表にも大きく関わる部分なのでしっかりと把握しておきたいです。
ただし、当期中のみの契約ではなく前期以降から継続して取引されているものもあるのでそちらも注意が必要です。
まとめ
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この経過勘定項目は非常に分かり難い考え方の一つである為、ここで頭が混乱してしまう人も多いかもしれません。
しかし、なぜこの様な決算整理が必要なのかを理解していけばそんなにも難しく考える必要もなくなると感じています。
今回のポイントを纏めたので参考にしてみてください!
- 当期にすでにサービスを受けている期間の金額=『費用』
- 支払いが完了しており、次期以降に受ける権利=『資産』
- 実際に当期中にサービスや物品を提供した金額=『収益』
- 収益として受けっとてはいるが、次期以降にサービスや物品を提供する義務=『負債』
- 当期にすでにサービスを受けているが支払いをしていない期間の金額=『費用』『負債』
- 当期にすでに提供しているサービスにたいしての未収金=『収益』『資産』
借方科目 | 貸方科目 |
---|---|
前払費用(資産) | 未払費用(負債) |
未収収益(資産) | 前受収益(負債) |