こんにちは、社会人15年目にして簿記の勉強を毎日楽しくやっているミミズクです!
決算整理の論点の中に『貸倒れ』というものがあります。
この貸倒れに関する理解や問題の解き方を見ていきたいと思います。
貸倒れ
貸倒れとは
『貸倒れ』とは得意先の倒産などによって『債権(資産)』の回収が出来なくなる事をいいます。本来ならお金を支払ってもらう権利(債権)を持っているので、後々お金を支払ってもらう事ができるはずです。
しかし、その権利をもっていたとしても相手からお金を全て回収できるとは限りません。相手が倒産などのやむを得ない状況で債権の回収が不可能となる場合もあるのです。
商品は売り渡していて、代金が回収できない。そんな状況に陥ることを貸倒れといいます。
この貸倒れは全てが決算のタイミングで発生しているわけではありません。期中、期末を問わず企業の経営状況によりこの様な自体が起こる可能性はあります。
商品の販売を全て現金でおこなっていれば貸倒れ『お金の回収ができない事態』を考える必要はありませんが、現実的な取引において掛け販売は頻繁に使用されています。
そのため、商品を販売してから代金を回収するまでのタイムラグが発生してしまうのです。このタイムラグの間に得意先が倒産する事も十分に考えられます。
簿記ではそんな貸倒れに関する事も仕訳をおこなって帳簿上の処理をしていく必要があります。
それでは貸倒れに関係する勘定科目をみていきましょう。
貸倒れに関する勘定科目
まずは貸倒れに関する勘定科目をみていきます。
『売掛金』や『受取手形』といった債権に対して得意先の倒産によって債権の回収ができない事を貸倒損失として計上するといった流れをとります。
その債権に対して、得意先の状態などをみて貸倒れの可能性を見積もり、次期の貸倒れの金額として計上するものが『貸倒引当金』。そして貸倒引当金の計上の相手勘定が『貸倒引当金繰入』と『貸倒引当金戻入』です。
貸倒の処理、つまり損金の処理をしたにもかかわらず、その代金(代金の一部)を回収できた時の仕訳に用いる勘定科目が『償却債権取立益』です。
下に貸倒れに関係の深い勘定科目をまとめてみました。
勘定科目 | 内容 |
---|---|
売掛金 | 商品を掛け販売した際の勘定科目、 代金を後々回収できる権利。債権。 |
受取手形 | 他人振出しの手形を受け取った際に使用する勘定科目。 債権。 |
クレジット売掛金 | クレジットカードを使用して 掛け販売した際に使用される勘定科目。債権。 |
電子記録債権 | 売掛金や手形が電子化されたもの。 電子債権記録機関と通して取引が行なわれる。債権。 |
貸倒損失 | 得意先の倒産などによって債権が回収できない時に 損失として計上するのに使用する勘定科目。 |
貸倒引当金 | 当期の債権に対して設定する金額。 会計期をまたいで使用する事はできない。 |
貸倒引当金繰入 | 決算整理で貸倒引当金を設定する際に使用する勘定科目。 費用の科目。 |
貸倒引当金戻入 | 決算整理で貸倒引当金を設定する際に使用する勘定科目。 収益の科目。 |
償却債権取立益 | 債権の回収が不能になり貸倒処理したをしたが、 その後回収ができた債権に対して使用する勘定科目。 |
勘定項目を確認したところで実際の仕訳方法や考え方をみていきます。
貸倒引当金の設定
決算の時には当期の債権に対して貸倒れの損失を見積もり、その金額を貸倒引当金⇨資産のマイナス勘定として計上しておく事があります。
それでは決算における貸倒引当金の設定方法を実際に確認していきます。
簿記3級では貸倒引当金の設定には『差額補充法』という方法を用いて貸倒引当金の設定をおこないます。
差額補充法
決算時の貸倒引当金の設定には簿記3級では『差額補充法』という方法をとります。
差額補充法とは読んで事のごとく、決算で見積もった貸倒引当金と当期の貸倒引当金残高の差額を補充する方法です。実際に数字をみてみないと分かりにくいので見ながら解説していきます。
この様な問題が出題された場合
まず考えることは決算においていくら貸倒引当金を設定すれば良いか?という事です。
売掛金800円、受取手形500円なので債権の合計金額は1,300円です。この1,300円についての貸倒引当金を設定するので
債権合計額 × 実績率 = 貸倒引当金
1,300円×5%(0.05)= 65円
決算で設定しなければならない貸倒引当金は65円と算定されました。
しかし、決算整理前残高試算表には15円の残高が残っています。
そのため、当期の決算で補充するべき貸倒引当金は
貸倒引当金算定額 – 試算表残高 = 差額補充法による補充金額
65円 – 15円 = 50円
この様に貸倒引当金算定額まで貸倒引当金の残高を補充する方法を『差額補充法』といいます。
貸倒引当金を算定する
決算整理前残高試算表の残高を差し引いて補充額を決定する。
決算整理仕訳
それでは実際に差額補充法を使用して決算における決算整理仕訳をおこなっていきましょう。
もう一度先ほどと同じ問題で仕訳をおこなっていきます。
まずは決算で設定するべき貸倒引当金の総額を計算します。
債権合計額 × 実績率 = 貸倒引当金
1,300円×5%(0.05)= 65円
この様に貸倒引当金の設定金額が65円と算定できました。
続いて、試算表の残高との差額である『補充するべき金額』の計算をおこないます。
貸倒引当金算定額 – 試算表残高 = 差額補充法による補充金額
65円 – 15円 = 50円
決算整理前残高試算表にはすでに15円の残高があるので、最終的な貸倒引当金を設定する為には『50円の補充が必要』と分かりました。
では貸倒引当金の補充をする為の仕訳をおこないます。
日付 | 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|---|
3/31 | 貸倒引当金繰入 | 50 | 貸倒引当金 | 50 |
今回は差額を補充する為『貸倒引当金繰入』勘定を使用します。この貸倒引当金繰入の要素は費用です。
つまり貸倒引当金『資産のマイナス勘定』を貸倒引当金繰入『費用勘定』を使って計上します。
これを決算整理前試算表と組み合わせるとこの様になります。
借方 | 借方 | 勘定科目 | 貸方 | 貸方 |
---|---|---|---|---|
800 | 売掛金 | |||
500 | 受取手形 | |||
貸倒引当金 | 15 | 50 | ||
50 | 貸倒引当金繰入 |
そして決算整理後残高試算表を作成、貸借対照表、損益計算書に反映させます。
借方 | 勘定科目 | 貸方 |
---|---|---|
800 | 売掛金 | |
500 | 受取手形 | |
貸倒引当金 | 65 | |
65 | 貸倒引当金繰入 |
貸借対照表
資産 | 金額 | 負債及び純資産 | 金額 |
---|---|---|---|
売掛金 | 800 | ||
貸倒引当金 | △40 760 | ||
受取手形 | 500 | ||
貸倒引当金 | △25 475 |
損益計算書
費用 | 金額 | 収益 | 金額 |
---|---|---|---|
貸倒引当金繰入 | 50 |
ここで注意しなければいけないのは貸借対照表へ貸倒引当金を反映させる場合、各債権ごとに貸倒引当金を計算し得てマイナスとして記入します。資産のマイナス勘定なのでこの様に記載していきます。
今回の場合は
売掛金800円 × 5%(0.05)= 40円
受取手形500円 × 5%(0.05)= 25円
これを資産のマイナスとして計上して、最終的な債権の金額とします。
貸倒引当金については費用として損益計算書へ反映されていますね。
タイミング別貸倒の処理方法
それではここまでで決算における貸倒引当金の設定方法などをみてきました。
では実際に貸倒れがおこったときにはいったいどの様に簿記では処理をしていくのでしょうか?
これは貸倒れの発生した時期により処理方法がかわります。詳しく時期別に確認していきます。
当期の債権に対する貸倒れ処理
ま当期の債権に関する貸倒れ処理の仕訳です。
A社に対する売掛金500円が回収不能、つまり売掛金500円が減ります。
そして、この回収不能となった500円を貸倒損失として記録します。
日付 | 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|---|
5/1 | 貸倒損失 | 500 | 売掛金 | 500 |
売掛金500円(資産)を減少させて、貸倒損失(費用)として仕訳します。
ここは分かり易い項目なので次にいきましょう!
前期分の債権に対する貸倒れ処理①
前期に発生した債権に対する貸倒れ、そして前期の決算で貸倒引当金の設定をしている場合をみていきます。
今回の論点は前期に発生した債権に関する貸倒れ処理の方法です。貸倒引当金の残高があるということは前期の債権に対してすでに貸倒れの見積もりをおこなっており、貸倒引当金の設定をしているという事です。
つまり、仕訳はこの様になります。
日付 | 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|---|
5/1 | 貸倒引当金 | 500 | 売掛金 | 500 |
前期の決算事にはこの売掛金に対しての貸倒引当金が設定されているので、貸倒損失ではなく、『貸倒引当金』を売掛金減少の相手勘定とします。
最初から損失するであろうと想定していた金額なので、当期の損失ではなく、前期にすでに見積もった想定内の損失ということです。
ですが何もかもが想定通りにいくはずもなく、想定外の事も起こりえます。
こんな場合はどうなるでしょうか?
前期分の債権に対する貸倒れ処理②
今回も先ほどと同じ様に、前期に発生した売掛金であり、貸倒引当金の設定もきちんとされています。しかし、ここで一つ問題が発生します。
それは貸倒れを見越して設定したはずの貸倒引当金の残高が不足してしまっています。
さすがにこれは想定外の事態です!
しかし、そんな時もちゃんと仕訳をする方法はあります。
日付 | 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|---|
5/1 | 貸倒引当金 | 300 | 売掛金 | 500 |
貸倒損失 | 200 |
もちろん貸倒引当金の残高分は貸倒引当金から差し引きます。そして残高不足になってしまった場合には不足分は『貸倒損失』として計上、記録していきます。
要注意の貸倒れ処理
ここまでみてきて分かった通り、貸倒れに対する債権の発生時期によって処理の方法が変わってくることは分かってきました。
ではこれはどうでしょう?
貸倒れが発生したけど、貸倒引当金の残高は十分に残っている…
ここで注目するべきはどのタイミングで発生した売掛金(債権)であるかということです。
もう分かりましたね!
日付 | 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|---|
5/1 | 貸倒損失 | 500 | 売掛金 | 500 |
仕訳はこうなります。
貸倒引当金の残高があったとしてもこれは『前期に発生している債権にたいする貸倒引当金』です。
つまり、当期に発生した債権には貸倒引当金残高の有無にかかわらず貸倒損失として処理する必要があるのです。
貸倒れ処理後の債権の回収
これで貸倒れの処理についてはほぼ網羅してきました。
債権の回収が不能になった時、貸倒引当金か貸倒損失を使って対象の債権を減らすことが貸倒れ処理でした。
しかし、貸倒れ処理した債権が万が一なんらかの理由によって少しでも回収できたとしたら?
いったん消してしまった債権をどの様に処理したら良いでしょう?
回収不能と思われて貸倒れ処理をした売掛金が回収できた場合ですね。
現金が500円増えたことは分かりますね。つまり
日付 | 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|---|
10/1 | 現金 | 500 |
借方に現金の増加を記録します。では相手勘定は何になるのでしょうか?
ここで登場するのが『償却債権取立益(収益)』です。
日付 | 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|---|
10/1 | 現金 | 500 | 償却債権取立益 | 500 |
この様に仕訳することができます。
償却済の債権を取り立てたことによって得た利益という事ですね!
まとめ
今回は少し長くなってしまいました。
この貸倒れの項目に関しては『問題文を正しく読み取る』力が重要であると感じる事が非常に多いです。
簿記の問題全体にも言えることかもしれませんが、問題の意図を正しく読み取って的確に仕訳をしていかなければならないという印象を強く受けます。
一つボタンを掛け違えてしうと全てが狂ってしまうという事を、さまざまな問題と解いていくうちに痛感する様になってきました。
落ち着いてしっかりと問題と向き合う事が大切かもしれません。
ここまで読んでいただきありがとうございました!